Vol.2 小沢一敬 × カツセマサヒコ

その頃、漫才をやるのが怖い時期だったの。

インタビュー・テキスト:カツセマサヒコ 撮影:豊島望編集:矢島由佳子
カツセ

今回のインタビューにあたって小沢さんのこれまでの活動を振り返ったんですけど、あまり苦労された話とかが出てこないのが印象的だったんです。でも、きっと窮地に立った経験もあったと思うんですよ。そういうときに支えられていた音楽とか、エピソードはありますか?

小沢

「若い頃、苦労したでしょ」とか言われること、よくあるのね。たとえば「若手の頃は食えなかったでしょ」とか。でも、たぶん俺ら芸人のなかで、本音で「苦労した」って思っているやつ1人もいない。だって、それがやりたくてやってるんだもん。言われてみれば苦労だったのかもしれないけど、全然苦労だと思ってない。だから、別にエピソードがないんだよ。

カツセ

なるほど。

小沢

そのときに支えてくれた音楽も、好きで聴いていただけだから、何とも思わない。音楽に救われたんだろうし、音楽があってよかったけど、別にだからといって、「音楽はたまたまずっとそこにいただけ」って感じ。ミュージシャンみたいなこと言いだしたでしょ、ついに(笑)。

カツセ

そこにいただけ(笑)。かっこいいです(笑)。

小沢

音楽があったからラッキーだったなと思うけど、別に音楽が具現化して目の前に現れても、「音楽さまのおかげで今の僕がいます」とは言わないと思うんだよね。

カツセ

イメージ的に、もっと近い存在だったんでしょうね。上とか下じゃなくて、横にいる。

小沢

……難しい。あまり考えていないだけかも(笑)。でもそういうものだと思ってる。

カツセ

スピードワゴンとしては、『M-1グランプリ』に出場して(2002年に初出場)、知名度がグッと広まったと思うんです。ブレイクして環境が変わっていくなかで、「今売れてきたな」って感じたとき、何を考えられていました?

小沢

やっていることはそんなに変わらなかったと思う。好きな音楽を聴いて、変装するわけでもなく普通に歩いて、普通に暮らして、好きなことをやって。ちょっとだけ変わったなと思うのは、ライブの頻度が減ったこと。仕事のバランスが変わっていったから。

カツセ

テレビ出演の露出がぐっと増えた時期でしたもんね。

小沢

その頃、漫才をやるのが怖い時期だったの。それだけはすごく覚えてる。漫才はずっとやっていないと、怖くなる。あと、その頃はネタの書き方も変わってきていて。「これをやればウケるだろうな」と思うネタをやりだしたら、ウケなくなったんだよね。それもすごく覚えてる。今は定期的にライブをやっているし、「これをやればウケるだろうな」と思うネタは作らないようにしてる。

カツセ

それって、アーティストが曲を作るときに、売れ線的に作ったものは逆に伸びないという話に似ていますね。

小沢

自分が曲を聴く側になっても思うんだけど、「見下してるな」って、受け手はすぐに分かるんじゃない? 「これをやればウケるでしょ」とか、「これをやればみんな喜ぶんでしょ」とか、そういうのってすぐに分かるもん。ファンとして見たいのはさ、「この人、普段こんなこと考えてるんだ!」とか、無茶苦茶な部分が見たいのに、こっちに寄り添って近づいてきたら「いや、そうじゃないんだよ、いいよいいよ」ってなっちゃう。

カツセ

その感覚って、音楽にもお笑いにも通ずるものなんですね。

小沢

少なくとも俺はそう思った。ネタやってウケなくなったなって思ったときは大体それ。……なんか「いつもウケてる人」みたいなスタンスでしゃべっちゃったけど(笑)。

カツセ

ウケてますから(笑)。

小沢

そんなことない(笑)。

カツセ

「甘い」ってネタをやり始めたのが2004年で、『M-1グランプリ』は2002、2003年に出場。どこに行っても「甘いのネタをやってくれ」と言われていたんじゃないですか?

小沢

うん。ライブに行っても、お客さんの半分が「甘い」を観に来ているわけ。その頃、自分でも何が何だか分からなくなっていて。ミュージシャンの気持ちでいうと、ヒット曲がでたらずっとそれをやらされる、みたいな。

カツセ

消耗していく感じがありますね。

小沢

自分に確固たるものがあればよかったんだけど、あの頃、自分でも何をやっているか、何をしていいのか分かんなかったんだろうなって、今は思うね。もう忘れちゃったけど。

カツセ

でも忘れられるくらいには、「甘い」から抜け出たご自分が今はあるってことですよね?

小沢

抜け出てないよ。「甘い」も、俺なんだもん。だから別に抜け出てない。

カツセ

じゃあせめて「甘い」に固執しなくなったというか、とらわれ過ぎないようになった時期はあるんじゃないですか?

小沢

それはあるかも。若いと肩に力が入っているんだなって。今、何でもいいもん。ウケても、滑ってもいいし。たとえば、番組に呼ばれて滑ったとするじゃん。今は「それも分かった上でキャスティングしましたよね?」ってスタンスだもんね(笑)。

カツセ

「滑るのを予想できなかったあなたが悪い」ってスタンス、もう無敵ですね(笑)。早くその境地に行きたいです。

小沢

何歳からでもそう思っていいんだよ。勝手にみんなが「人の期待に応えよう」ってしてるだけなんだもん。カツセさんも、いい記事書けなかったって自分で思うかもしれないけど、良くも悪くも、思い上がりだよ。(明石家)さんまさんがよく言うの。「俺は人に対して何も怒らない。滑っても落ち込まない。あぁ、今日の俺は滑ったな、まだまだやなって思うんだ」って。

カツセ

さんまさんでさえ、そうなんですか。

小沢

なんか俺が急に説教し始めたみたいだけど(笑)、たとえいい記事が書けなかったと思っても、それはおごりなんだよね。本気でやったんだったら、別にいいんだよ、きっとそれで。ただ、自分を許すためには本気でやらなきゃなって思うけどね。……って、偉そうだなあ、俺(笑)。

カツセ

<悩んだ末に出た答えなら 15点だとしても正しい>って、桜井さんも歌っていました(“CENTER OF UNIVERSE”)。周りの評価とか、高く見積もった自己評価とかありますけど、本気でやっていればそんなものは関係ないのかもしれないですね……。ありがとうございました!

「あんまり覚えていないんだよね、深く考えてもいないし」。インタビュー中、過去を振り返っていると、小沢さんは何度もそう付け加えた。現在にのみ全力で、少し前の自分のことも、うろ覚え。それが小沢さんらしさでもあると、何か分かったように思う。

それでも小沢さんは、過去に漫才が怖くなったことを覚えている。
「甘い」のブレイクに飲み込まれていた自分たちのことも、覚えている。
そしておそらく、これらの忘れられない経験が今の小沢さんを構成していて、「本気でやったなら、別にいいんだ」と思えるまでに至っている。

小沢さんのテーマソングをミスチルの新譜から強引に挙げたい。いや、ひとつ自然と浮かんだ曲がある。全編ダウンピッキングで演奏される80年代風ビートロック“海にて、心は裸になりたがる”だ。

<全部把握したつもりでいても 実は何も分かっていやしない>というサビ冒頭のフレーズは、たくさんの本を読み、音楽を聴き、ゲームや麻雀をして広い交友関係を築いても、それでも分かりきった顔はしない小沢さんに重なった。

キャリアからしても、スピードワゴンもMr.Childrenも、若い後輩たちに背中を見せないといけない場面が増えてきている。そのなかで<実は何も分かっていやしない>と自戒を込めるように言う両者の謙虚さと向上心は、やっていることや憧れているものは違っても、どこか重なる部分があった。

走り続ける人は、分かったフリなんてしない。分からないからこそ、走り続けている。

Mr.Children「Your Song」MV

小沢一敬(おざわ かずひろ)

お笑いコンビ「スピードワゴン」のボケ担当。相方は井戸田潤。1973年10月10日、愛知県知多市生まれ。Twitter:@ozwspwInstagram:@ozawakazuhiro