Vol.3 近藤春菜 × カツセマサヒコ

スタジオで誰も笑っていなくても、回り回り回り回って、何処かで誰かが笑ってくれているんじゃないかって

インタビュー・テキスト:カツセマサヒコ 撮影:豊島望
カツセ

ここまで伺った話に合わせて、どんなタイミングでどんな音楽を聴いていたのかも伺いたいです。たとえば苦労されていた時期、この曲に支えられていたなとパッと思いつくものはありますか?

近藤

今回の企画趣旨を除いたとしても、ミスチルさんには本当に支えられています。芸人になりたいけど、自分に自信もないし、どうしようって悩んでいたときは“終わりなき旅”に支えられていたし、芸人になってからも、スベったときには“彩り”を聴いています(笑)。

カツセ

スベったときに、“彩り”なんですか?

近藤

“彩り”の歌詞にある <なんてことのない作業が 回り回り回り回って 今僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく> ってところなんですけど。テレビって、画面の向こうで皆さんがどんなリアクションをしているかわからないんですよね。スタジオにいる出演者と、スタッフさんのリアクションしかわからないから、スタッフさんが一切笑っていないと「うわースベったな」って思うんです。

カツセ

考えるだけで、怖いです……。

近藤

そういうときに、スタッフさんが一切笑っていなくても、“彩り”みたく日本のどこかで回り回り回り回って、誰かは笑ってくれているんじゃないかなって(笑)。翌日になって「あいつスベってたなー」って感想で笑ってくれていてもいいんです。それが誰かの話に繋がって、笑ってくれているならいいんじゃないかなと思うことで、消化しています。

カツセ

“彩り”の歌詞をそういう意味で受け止めている人、全国でも1%くらいな気がしますけど (笑)、すごくいいですね。

近藤

だから桜井さん(桜井和寿)はすごいなって (笑)。 “終わりなき旅”も、超不安定な時期が人間にはある中で、将来のことを決めなきゃいけないし、一歩進まなきゃいけない。とくに私なんか「芸人になりたい」なんて不安定すぎる道を歩もうとしていたし、親にも言えないような状況だった。そのときに<誰の真似もすんな 君は君でいい>とか言われて、もう、桜井さんは私の生活を見ているんですか? ってくらいに刺さって。

カツセ

すごくわかります。

近藤

前に進むしかない歌詞を書いてくれているじゃないですか。<生きるためのレシピなんてないさ>って。当時は芸人を目指して頑張っているほかの人を見るとすごく焦っていたんですけど、あの歌詞を改めて読んで「そうか、自分なりのやり方、自分なりのタイミングがあるから、焦ることなく一歩ずつ進めばいいか」って思えて、救われていたんです。

カツセ

“終わりなき旅”は、本当に、僕もいろんなフレーズで救われてきました。

近藤

ファンじゃなくても2サビの歌詞で救われた人は多いと思うんですよね。<難しく考え出すと結局全てが嫌になって そっと そっと 逃げ出したくなるけど 高ければ高い壁の方が登った時気持ちいいもんな> って。まだ何もやってもいないのに頭の中で勝手にマイナスイメージを浮かべちゃって「ああうまくいかないかも」って逃げ出したくなるとき、あるじゃないですか。でも、あの歌詞を言われたら、もうチャレンジするしかないじゃんって。めちゃくちゃ支えられていますね。もう、“終わりなき旅”は、結局歌詞全部刺さってますね。

カツセ

すみません、さっきから共感ばかりですけど、本当にわかります、とても(笑)。

カツセ

他にも、春菜さんの人生を支えた音楽はありますか?

近藤

安室奈美恵さんと、ゆずさん。その3アーティストは映像作品まで必ず買う人たちです。ゆずさんの“アゲイン2”とかも、すごい支えられました。

カツセ

名曲ですね! ミュージックビデオも好きでした。春菜さんは、背中を押してくれるような曲を多く聴くんですね。

近藤

そうですね。今考えると、常に不安定だったんだと思うんです。中二のときとかは多感な時期というか、もっと不安定な時期ですよね。なんかわかんないけど鬱々とするなあってときに、ミスチルの“ALIVE”を聴いて、「うわ~、わかるこれ」って思っていました。

カツセ

中学生で“ALIVE”が沁みるのは、だいぶ早い気がしますね?

近藤

ヘヴィーなんだけど、生意気にも、自分とかなり重ねちゃって。歌詞の主人公は大人で、たぶん会社員で、働いている人をうたっているんだけど、冒頭の<この感情は何だろう 無性に腹立つんだよ>ってところで、勝手に自分と重ねていました(笑)。

カツセ

そう考えると、大人になってから実感する社会の理不尽さと、10代の頃に体験する窮屈さは、どこか似ているのかもしれないですね。そして、それを狙ってあの冒頭の歌詞だとしたら、やっぱり桜井さんはすごいって結論になりますね……(笑)。

近藤

本当に。13〜14歳の頃の自分って、とにかくこの気持ちを共感してもらいたいって欲が強くて。それが少し大人になってからようやく「こんな不安定な時期があるんだ」って納得できて、それで不安から逃れられた感じがありました。だから割と、背中を押してくれたり、共感してくれる歌が今でも好きなんだと思うんです。

カツセ

すごく難しいんですけど、その中で「春菜さんの一曲は何?」って聞かれたら、何が浮かびますか? 今日と明日でも、違うと思うんですけど。

近藤

うーん……同じアーティストの方でも、その日によって一番は違うしなあ……。安室さん、ミスチルさん、ゆずさんは、人生の中で一番不安だった時期というか、芸人になれるかどうかの瀬戸際みたいな時期にすごく助けられていたから、やっぱりその3アーティストの曲ですかね。この企画に合わせたようでちょっと言いづらいですけど、中でも“終わりなき旅”は、本当によく聴いていました。

カツセ

そうした時期を乗り越えて、今や日本トップクラスの番組出演数をこなす春菜さんがいます。ある意味、ひとつ昇りつめたところはあるのかなと思うんですが、この先どうして行きたいのか。ちょっとした野心みたいなものって、ありますか?

近藤

お仕事で言えば、もちろんバラエティーが大好きで、これからもずっとバラエティーをやっていきたいと思っています。あとは、年を重ねていくことでできることも増えるんじゃないかと思っていて。例えばお芝居とか、年齢とともに味が出てくるものをやっていきたいと思っています。プライベートは、どうなっていくかはわからないですけど、仕事を続けて行って、その経験から活かせることをやっていきたい。あと、もうちょっと年をとったら、年の半分はハワイで過ごしたいです(笑)。

カツセ

カッコいいことを言った後の、落差がすごいです(笑)。

近藤

でも本当に、将来どうなるかわかってないですけど、そのために今、頑張っている気がしています。お金だけでなくて、経験も、感覚も、いろんなものを貯金していると思って、過ごしてますね。

カツセ

それこそまさに、“終わりなき旅”って感じなのかもしれませんね。いろんなものを貯金して、自分を大きくしていくのって、ミスチル的な生き方だなあって思いました。これからも応援しています! ありがとうございました!

「海外に行くのが好きなんです。実は型にハマりがちなタイプで、ずっと仕事をしていると、いろんなものが凝り固まっちゃうから。言語が通じない国に行って、その街に流れてる音楽とかを聴くのも好きです」

取材後、プライベートの話になったとき、ちらりと話してくれたエピソードに「近藤春菜」という人物がいかに繊細で、バラエティの舞台に立ったときとは違う一面を持っているのかを垣間見た気がした。

趣旨の異なるいくつものテレビ番組に出続けるということは、いくつもの顔を持つのとほぼ同じことのように思う。アサイン時点でキャラクターをわかってもらえているとはいえ、その場で与えられる役割を使い分け、時には自分を押し殺してでも期待に応え続ける。タフな精神力が求められる仕事だ。

それを着々とこなしている(ように見える)春菜さんが、オフでは海外に出かけて自分を意図的に解放するのは自然なことであるし、それがまた近藤春菜という存在を少しずつ変化させていっているのではないかと思った。

これまで取材した2名にも、同じことが言える。

ブレイクを迎えた横田真悠さんも、結成20年を迎えるスピードワゴン・小沢一敬さんも、25年近く音楽業界のトップを走るミスチルだって、常に「変わらないもの」と「変化したもの」の両方を持って今に至るし、これからも、少しずつ変化し続ける。

それを証明するかのように、今回のアルバム『重力と呼吸』のラストナンバー“皮膚呼吸”は、<苦しみに息が詰まったときも また姿変えながら そう今日も自分を試すとき>という歌詞で締めくくられる。

変わらなく、つまらないように思える日常も、少しずつ変化しているし、それに影響を受けて自分自身も変わっていく。その日常に寄り添うように、支えるように、きっと音楽も鳴っていく。

改めて、読者のみなさんにもイメージしてもらいたい。
「あなたの人生を支え、彩ってくれた音楽は、何ですか?」

Mr.Children「Your Song」MV

近藤春菜(こんどう はるな)

お笑いコンビ「ハリセンボン」のつっこみ担当。テレビでは、朝の情報番組をはじめ、バラエティ番組やドラマ、映画まで多方面で活躍中。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。東京都狛江市出身。Twitter:@harisenbonInstagram:@harisenbon_staff